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「SF Japan」を読む! ──SF作家たちの饗宴

T2ファージの憂鬱

「チグリスとユーフラテス外伝 馬場さゆり」新井素子

 老婆になっても未だに例の口調が抜けない新井素子が、コールドスリープしている若かりし頃の自分を叩き起こし、「あんたは『素子姫』とか呼ばれていい気になっているたようだけど、結局やったことと言えば、あたしのようなしわくちゃで醜いババアを生んだことくらいなんだからねっ!」とカラむ話を、ある植民星の興亡という妙に壮大な舞台で展開し、見事日本SF大賞に輝いてしまった『チグリスとユーフラテス』の外伝。しかし、かなりきっちりまとまっていた小説で、果たして外伝なんて書けるんだろうか? 書いてどうするんだろう? と思ったら、馬場さゆりが主人公なのだっだ。成程。確かにあの小説にでてくる主要な登場人物のなかでは、唯一きちんと描かれていなかった人物だったなあ。新井素子も、それが心残りだったので外伝を書いたのかもしれない。
なんて、思いながら読んでいったのだが、やっぱり、それほど馬場さゆりに焦点があたった話ではなかった。どちらかというと、もう一度新井素子が舞台に上がってきて、ちょっと作品の解説をしてみました、みたいな感じだ。あるいは、『チグリスとユーフラテス』を出版してから結構時間が経ち、自分なりにもう一度あの物語を振りかえり、整理してみました、というところだろうか。ちなみに、今度は極めてスケールの小さな(笑)話になっているあたりは狙っているんだろうか。


昨日の神林は今日の……?

「ウィスカー」/神林長平

神林長平はひょっとして、デビュー当時に戻りたがっているのではないか、本編を読んでそんなことを、ふと思ってしまった。『魂の駆動体』で、科学技術が発達しつくした社会で、かつてのテクノロジーを蘇えらせようとする老人を描き、『ライトジーンの遺産』で、余計な能力を身に付けてしまった中年の奮闘を描き、『グッドラック』で、雪風と深井零を再登場させた。そして本作の主人公は大人になると失なってしまう超能力を有している少年である。これは、言うまでもなく、『七胴落とし』だ。
だが、『七胴落とし』は、少年が大人に脱皮する時の、ある種の痛みを描いたもので、必然的に、視点は少年からのものである。それに対して、本作はどちらかというと、大人から少年を見ているような感じがする。と、いうのも、ここでも例によって「大人になっても超能力を失なわなかった男」が出てくるのだ。これって、「大きな子供」って奴ですか(笑)。そういう意味では、どちらかというと、「かつての神林」と「今の神林」の対決……っていうか両者のせめぎ合いが本作品の特徴なのかもしれない。

そういえば、神林の次回作として「永久帰還装置」っていうのがありませんでしたっけ?


不敵な新人賞受賞作

「M.G.H.」/三雲岳斗

この小説はあまり「新人賞受賞作」という感じがしない。どちらかというと、「売れるSFとは何か?」という命題にひとつの答を出した、というところに意義のある作品ではないだろうか。試しに、「M.G.H.」の特徴をざっと挙げてみよう。

……ありとあらゆる層の読者にアピールできそうな要素が詰め込まれている、ということがおわかりいただけるだろうか。
特に注目したいのが、ミステリ的な部分。事件の発端になった、「無重力空間に漂う、どう見ても墜落死したとしか思えない死体」というのが、なかなかいい。そういえば以前、谷甲州も似たような死体が出てくる小説を書いていたはずで、SFミステリとしては、定番のネタなのかもしれない。しかし、谷甲州の場合は、物語の途中で犯人もトリックもバレてしまっているはずで、結局まともなミステリになりそこなっていたように思う。それに比べると、本作品は嬉しいことに、物語の最後にちゃんと解決篇が用意され、名探偵がいかにも名探偵的推理をしてくれるのだ(ワトソン君もいるぞ!)。これほど、常道に則った小説はなかなかないのではないか。なんとなく、『コズミック』とかが大嫌いな人なんかは、とても楽しく読めるような気がする。
ラブコメについてはですねえ、えーと以下略。


Last Update : 2000/ 3/12 Sun(まだメモ書き程度)

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