素晴らしきビブリオの世界:中級編

『図書館戦隊ビブリオンII』
小松由加子/集英社コバルト文庫

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 おっほん! えー、これから『ビブリオン』中級編についての講義を行うことにする。 ……え? 『ビブリオン』ってなに? 中級編って難しそう? ……あー、君々、入る教室を間違えたようだね。入門編を開講しているのは別の所だから。あそこにに行って一から勉強したまえ。ちゃんとテクストも買っておくこと。そうそう、『図書館戦隊ビブリオン』だね。

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 て、残りの諸君らはもちろん『ビブリオン』について一通りのことは学んだと思う。そこで今回は中級編と言うことで、よりいっそうのランクアップを図ることにしよう。テクストは当然の事ながら『図書館戦隊ビブリオンII』だ。前作の続編だね。物語は敗北を喫した悪の組織『ネオ・バグフォード』の四天王が『中九州市労働福祉会館』に集まるところから始まる。そう、彼らはこの不利な状況を打開すべく、一つの策を実行に移そうとしていた! 新兵器『蒐書黒戦艦ビブリオクラフト号』なるものを建造し、その圧倒的な力を持って、アレキサンドリア漂流図書館に攻め込もうと画策しているのだ。今まさに『ビブリオン』と『ネオ・バグフォード』との、新たなる戦いの幕が切って落とされようとしていたっ! いやあ、ワクワクする出だしだねえ。

 ころで、実は今回の特徴として、悪の組織側の視点がとても多いということが挙げられる。先に述べた導入部分もそうであるし、また、実際に『ネオ・バグフォード四天王』である水のアルクインが攻め込むところでも、彼に関する描写が結構ある。そう、まるで『ネオ・バグフォード』側が主人公であるかのようだ。……え? 本当にそうかって? 他にも物語中大きなウエイトを占めているキャラクターがいるんじゃないかって? うん、いいところに気が付いたね。そう、確かに新任の司書である照山紅葉(てるやまもみじ)先生も存在感があったね。また、実に『ビブリオン』らしい、ネーミングセンスといえるね。で、彼女の登場シーンもなかなか多かったりするのだ(文系のくせにビーカーでコーヒーを飲んで感動している)。これは一体どういうことを示唆しているのであろうか。

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 点を変えてみれば、要は『ビブリオン』の影が薄いということだ。この作品の要であり、アレキサンドリア漂流図書館を守ろうとしている5人があんまり目立っていないというのはちょっと不思議なことではある(督促状発射シーンはよかったけれど。あそこが、今回のクライマックスでしょう)。これに関しての私の考えでは、きっと作者が飽きちゃったんだと思う。もしくは、前作で彼らの個性・活躍を散々描写してしまっていて、それ以上のネタは作者の手持ちのカードには残っていなかったのだろう。本シリーズの主人公格である仁科昭乃の出番が極端に少ないのはそのためである。逆に言えば、物語を盛り上げるにはそれまであんまり描いていなかったキャラクターに焦点を当てるか、新しく誰か入れるかしなくてはならなかったわけで、前者が悪役、後者が照山紅葉であったということなのだ。

 ころで、作者が自分が書くべきテクスト自体に飽きるとどうなるかというと、物語を魅力あるものにする努力を怠ることになる。そして、別のことでお茶を濁そうとするわけだ。で、残念ながら『ビブリオンII』ではそういった跡がかいま見えるのだ。ところどころに出てくる説教臭さ(あとがきもそう)、作者のセルフツッコミ(さすがに無茶苦茶なことを書いているので恥ずかしくなったのかもしれない)。そういった要素が作品の魅力をいたく損なっているのは厳然たる事実である。

「食べ物の好き嫌いと同じで、その時その人がどうしても食べたくないものを無理に食べてもおいしくないように、本も、何でもいいから読めばいいってものじゃないのよ。好みっていうのはその人そのものだから。たとえ私が教師といえども、生徒に『この本はためになるから読みなさい』なんて強いることはできない(略)」(200ページ)

 だああああああああっ! そんなこたどうだっていいんだあ。私の好みは『ビブリオン』のおバカで楽しい活躍を読むことなんだよおおおおおおお。そんな無意味な説教なんて聞きたくないよー。……と、思っちゃうじゃない。普通。私は全体的にパワーとノリが前作よりも数段落ちているように感じられたのだが、それは以上の理由によるものなのだ。

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 、それでもなお『ビブリオンII』には大いなる魅力が残っていることも指摘しなければならないだろう。それは先で述べたことと重なるのだが、悪役(四天王)の登場シーンが多いということだ。しかも、この悪役たち実に生活感に満ち満ちていて、いい味だしてます。特に、蟲使いフェルララは一見すると典型的な悪女なのだが、背中の赤ん坊(平蔵くん)を常にあやしているというギャグが随所で効果的に使用されていて面白い。水のアルクインの情けなさもいい。

 う、今回の主人公はまさしく彼ら悪役四天王なのだ。それぞれの体にただよう生活臭とボケと悲劇の数々(毎回ボスの指令の最後は爆発で終わる)はまさしく主人公の証であると言えよう。……そう、作者はあきらかに悪役に肩入れしているのだ(戦闘員の生き生きとした描写を見よ)。だいたいよく考えて欲しい。前作で『ビブリオン』達が「本パンチ」「本キック」をかましているのを読んで、「なんて行儀が悪いんだろう」と諸君らは思わなかっただろうか。どっちかというと『ネオ・バグフォード』が使いそうな技だなあ、とも。そう、つまり作者は図書館の秩序を守るのではなくを荒らす側に感情移入して書いていたのである。これはしごくもっともなことと言えよう。なんてったって、秩序を守るより荒らす方が数段面白いのだから。

 あ、そんなわけで、おそらくこの『図書館戦隊ビブリオン』二部作は作者の図書館への色々な想いがきちんと込められているといえるだろう。表面的には図書館を悪の手から守る物語にしつつ、裏ではひそかに秩序を破壊するもの達をひいきにしている。単純な勧善懲悪になっていない。これこそが本テクストの真の魅力なのである。……ということで、今日の講義は終了!

「弥栄!」
「悪の誉れ!」

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