'99 Book of Days 3月(「グランドホテル日記」)

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らぶあんどぴーすだぜ


3月31日

 「陰謀のセオリー」を観る。なかなか面白かった。この作品の見所はなんといってもメル・ギブソン扮する主人公が口にするとても正気とは思えないような(トンデモ本にとりあげられるような)数々の陰謀説だろう。いや、しかしホント嘘臭いんですよ。メル・ギブソンも偏執狂でかつストーカーめいた変人を実にうまく演じていて、さらにアヤシさ倍増。多分映画の前半部分では観客は彼の行いにツッコミを入れまくっていることだろう。ついでにメル・ギブソンが想いをよせているヒロイン(ジュリア・ロバーツ)への同情とかも。
 が、それが次第に(むろん映画の中で、だけど)現実のものとなっていっちゃったりするのである。よくよく考えてみればフィクションの世界においては国家やそれに属する組織が陰謀をめぐらすというのは日常茶飯事なんだけど、観客に一旦「そんなことあるわけないじゃーん」と思わせた後だと、結構ショックを受けてしまうものだ。ウソっぽさを逆手にとって、後でおもむろにひっくり返すという手法はなかなか面白いものがある。
 また私がもう一つ面白いと思ったのは、基本的にはアクションありラブ・ロマンスありというわかりやすいハリウッド映画なんだけれども、ちょっと白っぽい色調や不安定カメラアングルの効果によるものか、爽快感があまり感じられず逆に閉塞感が漂ってくるところ。だいたい、ほんとんどキ○ガイ同然の主人公が活躍するということは、つまり世界全体がキ○ガイと言えるわけで……。こうしたいわば不協和音みたいな要素が効果的に使われていて、作品に深みを与えている(より効果的にチープになっているともいう)。
 あ、それからピカード艦長……もといパトリック・スチュアートが実に嬉しそうに悪役を演じていたのが印象的だった。


3月30日

 実はトップページのレイアウトを大幅に変えようと思っている。そろそろ「BookMeter」に戻したいな、と。とはいっても、4月中に恩田陸関連で何か書きたいとは思っているんですけどね。ただ、いい加減あの赤と白と青と黒の気色悪い色彩は何とかしたいものだなあ。
 ……問題はじゃあどういうデザインにするか、ということなんだけど、やっぱりスタイルシートをばしばし使ったものにするのは言うまでもない。でも、本当のことを言うと、html4.0のエレメント(タグ)だけでも、スタイルシートとほぼ同じ効果をあげられるんだよね。しかもその方がIEやネスケだったらほぼどんな風に見えるかが予測がついて便利だったりする。逆にスタイルシートってブラウザの対応度が違うので気苦労が耐えない。ほとんどパズルを組んでいる気分だ。この日記のデザインだってTABLEエレメント(タグ)を使えば簡単なんだけど、スタイルシートを使うとこれがまた大変で。
付記:後にこのページを開くとブラウザが落ちるという現象があるという話を聞いた。どひゃあ。


3月29日

 というわけで、「ガンドレス」についてだが、感想は諸々の事情の関係で、控えることとする。かわりに先輩の書いた文章を参照のこと。


3月28日

 ある人から、今各所で評判のアニメ「ガンドレス」を観に行くようこんこんと諭される。そう、未完成にも関わらず劇場公開した奴だ。それも、一部未完成ではなくて、前編未完成という前代未聞の出来だという。すげえ。なんでも件の人が言うことには、「アニメという概念を根本から覆す作品」なんだそうな。へえええええええ。実はこれまで全然興味が湧かなかったのだが、聞いているうちにだんだん行きたくなってきたのだった。まあ、明日でどうやら仕事が一区切りつきそうなので、帰りに寄ってみるかという気になりつつある。さて、どうしましょうか。


3月27日

 『ヴァレリア・ファイル』を読んで、「風のクロノア」をちょっとプレイしてみながらLinuxをノートパソコンにインストールして、「リプレイスメント・キラー」「カウボーイ・ビバップ」23話(「カウボーイ・ファンク」)を観てもだえ狂っていたという、実に充実した一日だった。それぞれについて、書きたいことが多々あるのだが、ひとまず省略する。しかし、XFree86を起動すると何であんなに遅くなっちゃうんだろう? ウインドウ・マネージャ(After Step)のせいかなあ。もしくは、きちんと設定し切れていないとか。あと、ビバップはもうどうしてくれよう、って感じ。しかも、作画のレベルがものすごく高いんだよな。そこまで、スタッフのやる気をださせたほどの完成度を誇る脚本だったんでしょう、きっと(これを果たして皮肉の意味にとってほしいのかどうか、自分でも迷っている)。えーとそれからそれから……だから以下略なんだってば。


3月26日  今月の「ロミロミ」

 えー、ちょうどSFM5月号が昨日発売されたんで、いま話題沸騰中の(沸騰してるの!)「ロミオとロミオは永遠に」(恩田陸)について今日はちょっと述べてみよう。そもそもこの作品、SFM3月号から連載が始まったのだが、そのとき、すげえキレたキャラクターや設定にびっくりしたものだ。「ここまでバカなものをよくSFMは掲載したもんだ」と言った人がいたが、私もそう思う。ただ、まあ、連載第一回だし、顔見せという意味もあるんだろう、第二回になれば多少落ち着いた感じになるんじゃなかろうかと思っていた。が、恐ろしいことに、第二回になってもテンションが一向に衰える気配がなかったのだった。いやそれどころか、さらに高くなっていたのである。なんてったって、第一回のときの面白さは某キャラクターの狂いぷりにあったのだが、今回は物語の舞台である学校そのものが想像を絶するほど狂っていることが判明したのだから。そしてそして、待望の第三回。さらに明らかになる学校と学生の秘密。もう、駄目です。すごすぎます。前回読んだとき「そこまでやるか?」と思ったものだが、ここまでくると、「恩田、お前ストーリーを進める気はあるのか?」と、言いたくなってしまう。よくよく考えれば延々と学校紹介をしているだけなんだもんなあ。いや、多少は話は進んでいるようなんだけどね。まあ、でも、「ロミロミ」に関してはちゃんと物語が終わらなくてもいいです。延々と学校紹介だけをしていても許します。このテンションが続くのならば。ああ、まさかこんなにSFMの発売が待ち遠しくなる日が来るとは思わなかった。
 しかし、未来の日本はこんなたわけた国になっちゃうのか。楽しそうだなあ。はたから見るぶんには、だけど。


3月25日  Check Out

 てなわけで、収録してある短編を全て読了したのだが、後半はややだれたかなあ。恐らくは「ヴァレンタイン・ミュージック」以前と以後というかたちで境界が引けるんじゃないだろうか。あれ以降は津原以外は今ひとつぱっとしなかったような(あ、「シンデレラのチーズ」/斎藤肇はなかなか良いか。でもこれは「グランドホテル」の載せる話じゃないよなあ)。いや、この日記も私が忙しくなるにつれてだれていったということもありますが。基本的に実生活でも一日一編のペースで読んでいってたんだけど、最後の方はズルしてたし。
 ただ、DASACONの折りに林さんが確か「異形シリーズって、読了すると、どれがよくてどれが悪かったかとかいった記憶が無くなっちゃうんだよね」みたいなことをおっしゃっていたような気がするが、さすがに感想をいちいち書いていると多少なりともそれぞれの印象をおぼえいているものだったりする。ということで、個人的に面白かったものをピックアップしてみると……
「探偵と怪人のいるホテル」/芦辺拓
「深夜の食欲」/恩田陸
「新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー、キウイソース掛け」/田中啓文
「水牛群」/津原泰水
 の4編になるかな? 全体的には、「モザイクノベル」の形式をとっていることもあって、どうしても物語の傾向が似たようなものになっている感じがする。例えばホテルに出没する化け物、とか。最初の頃は新鮮なんだけど、後になればなるほど「またかい」とか思うようになってしまう。だから、竹川聖の「貴賓室の夫人」なんかは、早くに読んでいればもっと楽しめたのかもしれない。逆に言えば、今回は、提示された舞台をうまく使いつつ、いかにそこから逸脱した物語を作り出せるかが作者の腕のみせどころであったと言えるだろう。上記に挙げた4編はどのタイミングで読んでも楽しめる内容になっていると思う。

井上雅彦「チェックアウト」


3月24日

 たぶん、これを最後に持ってきたのは(さらにまだもう一つあるんだけど、あれは後書きみたいなものだから)、最後に主人公がホテルを去っていくということと、それからもう一つは……これはネタバレになっちゃうから書けないか。ま、とにかく、しみじみとした感じでいいんではないのでしょうか。

菊池秀行「指ごこち」


3月23日

 これですよ、これ。これこそ、まさしく京極夏彦の「怪談」でしょう。……って、あれ? 作者違うんですか? おっかしいなあ。
 ……って、ええと、一応書いておくとこれは皮肉じゃないです。一つの話として良くできてます。ただ、主人公が人生の落伍者で、そこに妙な衒学的な雰囲気をたたえた人物がやってきて、変な化け物にまつわるお話が展開されたら、それはもう京極そのものじゃない。ちなみに、本当の京極夏彦が書いた「厭な扉」の主人公はあんまりぱっとしなかったけど、こちは実に見事なまでに駄目っぷりを発揮してくれます。後ろでひっそりと蕎麦屋のおねえちゃんがかいがいしく支えてくれてたりするあたり、もう素晴らしいことこのうえないですね。まさしく、『グランドホテル』のトリをかざるに相応しい小説と言えるでしょう。……え? まだあるって?

津原泰水「水牛群」


3月22日

 どろぼーが、大変な目にあう話。それだけ。
 ……うーん、いまいち「貴賓室」っていう感じじゃないんだよね。いきなり「ホープ・ダイア」とか「トプカピ宮殿のダイア」って言われてもねえ。

竹川聖「貴賓室の夫人レディー


3月21日

 うううううう、だんだん感想を書くのがつらくなってきた。ここまで行くと特に語るべき言葉自体が無くなってくるんだよなあ。「雰囲気が良い」はいはい。「語り口が素晴らしい」はいはいはい。「物語が自分の好み」へいへい。あああ、でも、他に何を書けっていうの。めんどくさいー。が、ゴールはもうすぐ、後少しの辛抱じゃ。
 てなわけで、「螺旋階段」ですが、なかなか面白いです。ええ。そもそも、雰囲気がいいですし、狂気を含んだ語り口が素晴らしい。……あー、やけくそに書いているように思えるかもしれませんが、結構私、好きですよ。ホント。こういう心象風景の使い方は一歩間違うと某アニメっぽくなっちゃうんですが、それを「螺旋階段」というガジェットを利用することでうまく、独自の世界を創れている。この本の読者にラストスパートを促してくれるような良作。

北野勇作「螺旋階段」


3月20日

 色んな意味で、ノーコメント。でも、写っている人物を見て「これってもしや……」と思っていたら、案の定だった。

榊原史保美「運命の花」


3月19日

 いやあ、来週のビバップはすごそうだね。いまからわくわくしちゃうよ。と、いう話はさておいて、「うらホテル」だ。今回はホテルにまつわる一つの伝説と女性の話。それだけ。うーん、可もなく不可もなしってところですかね。

本間拓「うらホテル」


3月18日

 多分全短編中、最もズルしている話だと思われる。いや、まあ、いいんですけどね。そもそもテーマを統一しているということは、全体的に似たような感じの物語が集まってくるわけであり、それぞれが例え面白かったとしても読者はだんだん退屈してくるものだ。何か、こう、単調な感じになってくるんだよね。そんな中でこういう掟破りなネタが出てくるとホッとしてくるのではないのだろうか。タイトルは秀逸。

斎藤肇「シンデレラのチーズ」


3月17日

 センスの悪い「新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー、キウイソース掛け」(田中啓文)という感じ。ただ、安直にスプラッタにすれば良いものではない、ということがよくわかる。それから、ヒロインの名前が「比奈子」というのが非常にムカつく。

飯野文彦「一目惚れ」


3月16日

 物語全体から漂ってくる独特の雰囲気がなかなか良い。結構、好みである。あと、「フリーズ」という単語がダブル・ミーニングになっているところが、洒落ていると思った。

倉阪鬼一郎「雪夫人」


3月15日

 ミステリ・タッチのホラーということで、物語にちょっとでも立ち入るとネタバレになってしまうおそれがあるので、以下略。とかなんとか言いつつ、でも、トリック部分はちょっと邪魔だったんじゃないかなあ。途中でほとんど見当ついちゃうし。

田中文雄「冬の織り姫」


3月14日

 いやあ、これもまた読むのがつらかった……。今度は悪い意味で。だって、文章がすごいんですもの。だいたい今時のアイドルが「皆さん、熱々アツアツですかあ――っ!?」とか観客に聞くものなんでしょうか。妙にノリが古くさいように思えてならないんだけど。

難波弘之「ヴァレンタイン・ミュージック」


3月13日  美食家にはたまらない小説?

 「吐き気がしそうなくらい面白い」って、これは誉め言葉である。今まで読んだ「グランドホテル」の作品の中で最もインパクトがあった。しかし、感想を書くとなると、ほとんど罵声っぽくなるなあ。気色悪さというか、生理的嫌悪感みたいな要素が満載だし。いやほんと、思わず活字から眼を背けたくなりましたもの。……だから、誉めているんだってばホントに。ところで、恩田の「深夜の食欲」といい、面白い小説に限って食事・食材をテーマにしているというのはなかなか興味深い。

田中啓文「新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー、キウイソース掛け」


3月12日  厭よ厭よも……

 出ました! 本書の(一般的には)最大の目玉、京極夏彦です。例によって、ちゃんとページの端で文章は全部終わっています。マメだなあ。さて、今回の小説の主人公はうっかりとマルチ商法に引っかかったあげくにホームレス状態に陥ってしまった不幸な男。つまりは、もう少し人物描写に凝ればほとんど関口君ですな。とある一人の男から幸福になると紹介されてやって来たホテルで彼を待ち受けていたものとは一体……。実は全然期待しないで読んでいたのだが、結構キレていて予想以上に面白かった。
 あと、京極とヴァレンタインデーってあんまり似合わないなあと思ってしまった。やっぱりここは京極堂がしゃしゃり出てきてヴァレンタイデーについて長々と講釈をたてたり、突然榎木津がけたたましい笑い声をあげながら乱入してこないと雰囲気でないよね。

京極夏彦「厭な扉」


3月11日

 うーん、基本的にはイラストだからなあ。感想といっても、「やっぱりソファーに座っている裸のおねえちゃんの絵が一番いいよね」というところでしょうか。

村山潤一「Strangers」


3月10日

 いい加減、飽きたので普通のレビューに戻すことにする。
 さて、この『グランドホテル』には、モザイクノベルの体裁をとっているだけあって、一つの共通した設定を設けている。それは、「ヴァレンタインデー」に宿泊すると、幸福になれる(らしい、あくまで噂のレベル)というもの。これは言うまでもなく、出版の時期が2月だったからにほかならない(もし12月だったら「クリスマスに宿泊すると幸福に……」ということになるはずだ)。まあ、それはともかくとして問題なのは、これまで読んできた物語にはどれ一つとして、この設定を有効に活用しているものがないのである。っていうか、主要登場人物にカップルが一組も出てこない。出てくるのは、借金の取り立てから逃げようとしてなぜか部屋にたてこもっていたり、妙な幻想を抱いちゃった頭のネジが少々ゆるんでいるとしか思えない男といった、ロマンスのかけらもない人間ばかりなのである。ま、それはそれでいいけど。
 前置きが長くなったが、今回は珍しくカップルが登場する。ようやく、まともな「グランドホテル」らしい小説が読めるというわけだ。そんなわけで、少し話が長すぎるんじゃないかとも思うんだが、編者の意向に忠実に従っているんだから少々他がダメでも許してあげるべきだろう。例え、さして評価できるような物語ではなかったとしても。

森真沙子「チェンジング・パートナー」


3月9日  わかっていると思うけど

 この私が恩田陸の作品に関して冷静に語ることができるわけがないじゃん。感想はパスだパス!
 いや、でも、なかなかいいと思いますよ。目の付け所が他の作家とは違う。

恩田陸「深夜の食欲」


3月8日  勢いはさすがにあります

 なんか、人が部屋に閉じこもっていて、ぶつぶつとこれまでのことを話していたようだ。私は、彼の過去なんてどうでもいいから、ホテルに来てからのことをもっと知りたかったなあ。ま、面白いかどうかはともかくとして。

山田正紀「逃げようとして」


3月7日  どうぞご勝手に

 私は、某ホラー関連の人やネタについては全然興味がわかないので(だって、陳腐なんだもん)、もうどうでもいいです。

五代ゆう「To・o・ru」


3月6日  やっぱり辛口じゃだめなんだろうな

 コトが起こるのは何も昼に限らない。いや、このホテルの性格を考えれば、当然最も面白い出来事を見ることができるのは夜であるはずだ。
 そして、今晩は摩訶不思議な葬列が目の前を通り過ぎていったのだった。その異様さといったら……! しかし、ひょーろんかがこういう怪しげな行進に巻き込まれているのは笑った。日頃ロクなことを書いていない報いが来たんだろうか。

奥田哲也「鳥の囁く夜」


3月5日  メイドさんの真の姿

 だから私は英語は苦手なんだってば。……それはともかくとして。
 どうやら、このホテルには普通では見えない区画があるらしい。秘密のエレベータに秘密の廊下、そうして秘密の部屋。そしてその奥にあらせられますは……えーと、そんなにとんでもないものでしたか? まあ、少なくとも外見は恐ろしいけどね。

篠田真由美「三階特別室」


3月4日  Consulting Detective

 やっぱり噂は本当だった。ここでは、浮き世ではお目にかかれない妙なものがいるようだ。今日、出会ったのは兇賊《殺人喜劇王》。……あー、この人、こんな通り名を頂戴して本当に満足しているんでしょうか。外見や振る舞いはとってもかっこいいのにねえ。で、どこが「喜劇」なの。すげえ、シリアスじゃないの。ああ、あなた様のような、あんちひーろーが、アホみたいな名前を付けられているなんてっ。おかわいそうに(まさしく、悲劇)。
 しかし同時に、表面は真面目でその実バカ、という話は私が最も好むパターンなので、深く追求したり、悲しんだりするのはやめることにする。《殺人喜劇王》や、つらいだろうが、しっかりがんばるんだよ。そこらへんのエセヒーローを皆殺しにしておしまい。

芦辺拓「探偵と怪人のいるホテル」


3月3日  Check In

 ということで、疲れ切った私は、浮き世とヴァーチャル空間を離れ、とあるホテルにやってきた。クラシックな感じのする木造建築の西洋館という外見というのもなかなか魅力的だが、さらに聞くところによると、ここは、とても普通の人間なら信じることができないような不可思議な出来事が起こったり、はたまたこの世のものならぬ魑魅魍魎が闊歩していたりするという噂もあるんだそうだ。素晴らしい。ちなみに、ホテルの名前は……えーと、『グランドホテル』(廣済堂文庫よりパンフレットが発売中。なお、総支配人は井上雅彦)。どうやら、色々面白そうなことを見たり体験したりできそうだ。しばらくは、ここに滞在することにしよう。でも、ただぼーっとしているのも不毛なような気がする。受動的になっていてはいけない、私も何かしなきゃ。そうだ、今日から「グランドホテル」で起きたことを日記に記しておくことにしよう。

 さて、チェックインをすませ、なにかネタはないかなーとあちらこちらをうろついていたら、どこかの部屋から二人の女性の声が聞こえてくる。……は? なになに、一方が記憶喪失で大変? はあ。さいですか。なんか色々事情があるらしいんですが、でも聞けば聞くほど妙に都合良くできている話であると思っちゃうのは私だけでしょうか。あと、どっかで聞いたことのある事件が下敷きになっているような。ま、いいか。どうも、とりたてて興味を惹かれるようなネタではなさそうだし。とりあえず、今日は寝るか。

新津きよみ「ぶつかった女」


3月2日  Judgement Day

 いいんだ。もう、いいんだ。
 「アイデンティティ」という言葉にも、もう飽きた。「自分探し」なんて、糞くらえだ。私の前に広がる荒涼とした光景の前には、そんな陳腐な言葉など朽ち木ほどの堅さもありはしない。
 疲れた。本当に疲れた。毎日毎日、うつろなる言葉をありがたがってなでまわし、偽りの日常生活で満足するなんて、まっぴらごめんだ。冗談じゃない。
 そんなわけで、もはや現実でも、そしてヴァーチャルな空間でも、自らを生かし続けることに果てしなく愛想が尽きました。さようならみなさん。探さないで下さい。


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