S-Fマガジンを読んでみる

大熊健朗

第3回2002年10月号


大部分の人はご存じないことだと思うが、S-Fマガジンをレビュウする人は、自ら立候補したり、漫然と決まってしまうわけではない。実は、レビュアーは指名制になっている。大抵の場合、候補者の元にどこからどもかく、一通の白い封筒が届くことになっていて(普通は、ある朝ポストに真っ白な封筒が入っているのをみつけるわけだが、フクロウが運んでくる時もあったらしい)、そこには、都内某所にあるロッカーの鍵と、レビュアーになるための手順がかかれた説明書が入っている。もし、候補者がレビュアーになることを決意したのなら、ロッカーを開け、中に入っている原稿用紙でショートショートを書き、早川編集部あてに投稿しなければならない。そして、投稿作が見事S-Fマガジンに掲載されると候補者は晴れてレビュアーになるわけである。逆に、レビュアーになりたくない人は、鍵を早川編集部に郵送すれことで拒否の意を示すことになる。
問題は、一体誰が、このような手の込んだことを行っているのかということなのだが、私の聞いた限りでははっきりしたことはわかっていないようだ。ある人はS-Fマガジンの歴代編集長のうちの誰かであると言うし、またある人はSFファンダムの偉い人に違いないと確信しているらしい。またある人は、どこかの高校に勤めている日本史担当の教師ではないかと考えている。まあそんな謎につつまれた伝統あるS-Fマガジンのレビュウを行うというのは大変名誉なことになるわけ、なんだが……実は、私は指名されてS-Fマガジンのレビュウを行うことになったわけではない。白状すると、たまたま、S-Fマガジンのレビュウをすることになった知人を問いつめて上記のような真相を知ったのである。で、件の知人がレビュアーをやめることになった時、ふと思ってしまったわけだ。私だって私だって、S-Fマガジンをレビュウしたっていいじゃない。そうよ、私が今年の小夜……もとい、S-Fマガジンのレビュアーなのよ! ま、そんな鈴木杏的決意で始めた「S-Fマガジンを読んでみる」なのだが、いやーなかなか難しいですね。レビュウというものは。

と、いうわけで(?)、今月のS-Fマガジンは、作家デビュー10周年記念作になるはの『ロミオとロミオは永遠に』が果たして年内にちゃんと出るのか(*)注目されている恩田陸特集。そもそも私が恩田の処女作である『六番目の小夜子』の存在を知ったのもSFマガジンがきっかけだったこともあり、この雑誌で特集が組まれたというのはなかなか感慨深いものがある。
肝心の特集の内容は、恩田陸のインタビュウ、今後S-Fマガジン上で連載が始まるらしい物語のプロローグににあたる短編、そしてこれまでに出版された単行本の解説の三つ。恩田ファンとしてはあまりにもオーソドックスすぎて、ちょっと物足りないものがある。特に、単行本の解説は平均的で無難な紹介文に終始していて、いまいち面白みがない。どうせなら、全作品を対象にするのではなくてSF作品に絞ってもっと踏み込んだ内容にすればいいのにと思った。ただ、インタビュウにおける三村美衣のツッコミは必読。

また、今回も各レビュウの末尾にSFM考課表の点数を付したので、参考にしていただきたい。なお、今回は恩田陸作品掲載記念として、レビュウ対象となった全ての小説に対して1点追加してある。


SFマガジン 2002年10月号

[恩田陸特集]

[恩田陸特集]
遺跡の少女恩田 陸

[読切]
夏の硝子体飛 浩隆
狩猟と農耕草上 仁

[新鋭海外作家読切]
<トースト>レポートチャールズ・ストロス

最後の祈りの日マイクル・A・バースタイン

[連載企画]
《ことのはの海、カタシロノ庭》piece 10 影目山田 正紀&藤原 ヨウコウ


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[恩田陸特集]

遺跡の少女 恩田 陸

(イラストレーション・中川 悠京)

境界線の、古い遺跡の中にある、何よりも古い井戸。その井戸を幻視した三人の少女は、自分たちが成すべく役割を悟り、それぞれが井戸を目指すことになる。
一人は、水晶玉と調整機械の管理人だった、「井戸を司る者」
一人は、盲目と素晴らしい耳の持ち主である、「井戸に触れる者」
一人は、勇ましい戦士である、「井戸を守る者」
だが、彼女らが井戸を目指し旅立つと、次々と妨害者があらわれることになる。果たして三人は井戸にたどり着くことができるのだろうか。そして、井戸には一体何があるのだろうか……。

新連作シリーズ≪アガルタ≫のプロローグにあたる物語。もっとも、恩田陸は将来執筆予定作のプロローグであると称した短編をいくつも書いており、そのことごとくが未だなんの音沙汰もないことを考えると、連載が果たして始まるのかは甚だ疑問ではある(実際、インタビュウにおいて連載開始はまだ大部先であることを恩田はほのめかしている)。
ただし、機械文明が背後にあるらしいファンタシー世界、そしてその世界とこの世界が通じているらしい一枚の絵、といった世界観はとても魅力的だ。そして、この魅力的な世界の物語がこれからどのように語られてゆくのだろうとわくわくさせてくれるラストは、まさに恩田陸的魅力にあふれていると言えよう。(+3)


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[読切]

夏の硝子体 飛 浩隆

(イラストレーション・安心院 貴子)

ヴァーチャル空間上に作られたリゾート地に人がまったく訪れなくなってしまった大途絶(グランド・ダウン)から300年後。ゲストを迎えることなく世界に取り残されたAIたちの一人であるジュリーはある日、自転車修理屋に訪れた一人の男に会う。そして彼女は彼の記憶に刻まれた過去に向かい合うことになるのだが……。

9月に刊行され、その冷たくて美しい独特のタッチで読者を魅了した『グラン・ヴァカンス 廃園の天使I』の前日単にあたる一作。私は最初のこの物語をなんの予備知識もなしに(もちろん、『グラン・ヴァカンス』はまだ出ていなかった)読んでみて、いまいちピンとくるものがなくて、でも妙に変な感じのする話だなあという印象を受けたことを覚えている。しかし、もうすでに『グラン・ヴァカンス』を読んだことのある人ならば、本作の登場人物がジュリーとジョゼであると書けば、どんな話なのかはだいたい見当がつくことであろう。そしてまた、本作はジュリーがとても大切なものと出会うまでの物語でもある。今回、この文章を書くあたり、改めて本作読み返してみたのだが、カタストロフの予兆を下敷きにし、主要なエピソードを選択して再構成したもうひとつの『グラン・ヴァカンス』そのものではないかと言う感じを強くうけた。もちろん、ヴァーチャルな世界はまだ確乎として存在し、AIたちはゲストをもてなす機会を失ったまま奇妙で平和な毎日を送っているわけだが、でも話の底には読み手を不安にそして魅了する何かがひそやかに息づいているのだ。(+1 ――ただし、『グラン・ヴァカンス』読了後としては+2)


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狩猟と農耕 草上 仁

(イラストレーション・西島 大介)

マフィアの会計士を勤めてきた主人公は、口封じの為に辺境の植民星へ強制的に移住させられてしまった。この星では強制的に職業分野を選択する制度になっており、主人公は「農耕」と「狩猟」どちらを選択するのかを迫られる。果たして、彼が選んだのは……。

二度と取り返しのつかない二択を迫られ、とても魅力的に見える方を選択したのだが実は……というもう古典的という言葉さえ使っていいんだろうかと迷ってしまう類の小話。まあ、結末がどうなるかは誰でもわかるはずだ。問題は、どう巧みにそれぞれの選択肢が持つ意味をずらすか、というところにあるわけだが、SFってなんでもありなので、少々奇抜な設定を持ち出してきても読者としては「ま、そういうこともあるかもね」という感慨にひたるだけで、さして面白みを感じられないのが辛いところではある。どちらかというと、「私は会計士だ。数字の裏を読む癖がついている」とか冒頭でえらそうな能書きをたれていた人物がその過剰な自信にはまってしまい、策士策に溺れる様子を意地悪く楽しむ類のお話だろう。まあ、そもそも数字の裏をちゃんと読めるのなら、植民星にとばされるようなヘマをするはずはないわけだが。(+1)


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[新鋭海外作家読切]

<トースト>レポート Toast : A Con Report

(初出:<インターゾーン>一九九八年八月号)
チャールズ・ストロス Charles Stross/金子 浩訳
(イラストレーション・渡邉 英徳)

コンピュータ産業が高度に発達した未来。主人公は、引退したハッカーが一度に集うコンベンションを取材する。

あり得る(かもしれない)未来社会とそこに通ずるこれまでのコンピュータの歴史を、一記者の取材メモという形式で綴る、ハッカーの内輪話。しかしなあ、出てくるガジェットや世界観がちっとも面白そうじゃないんだよなあ。まあでもマイクロソフトが宇宙に進出する未来というのは、ちょっとだけ興味を惹かれるものがあるかなあ。地球外生命体にWindows USSを売りつけるゲイツとか。(+1)


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最後の祈りの日 Kaddish for the Last Survivor

(初出:<アナログ>二〇〇〇年)
マイクル・A・バースタイン Michael A. Burstein/幹 遙子訳
(イラストレーション・小菅 久実)

ホロコーストの最後の生き残りである男がまもなく死を迎えようとしていた。孫娘のサラは大きな決意を秘め、彼と最後の対面をする。

「お祖父ちゃん、まさか本気で、あんなことがまた起きるなんて思ってるわけじゃないでしょうね」
「もしまた起きれば……絶対にそんなことがあってはならないが、もしまた起きたときには、最初に死ぬユダヤ人は、自分がユダヤ人であるとわかっていない者たちになるだろう」

……という、サラと祖父の会話がこの物語の基底になっている。だがしかし、イスラエルとパレスチナ間の紛争をまのあたりにしている時代の人間にとっては、これはユダヤ人にとって政治的に都合のいい話だ、という結論に至ってしまいかねないのは大変残念なことだ。確かに、過去に起こった痛ましい虐殺の歴史を忘れてはならない。しかし、被害者がいつの日か加害者になり、みずからが虐殺者になりえることもまた肝に銘じるべきだろう。そして、その視点が存在しな物語はもはや反戦をテーマにしているとは言えないのではなかろうか。(+1)


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<連載企画>

《ことのはの海、カタシロノ庭》piece 10 影目 山田 正紀&藤原ヨウコウ

「やったあ! 今回のテーマは闇だ! しかも、その闇を覗こうとするとえらいことになるというすさまじく恐ろしい闇だ。ってことは、イラスト自体、あんまり読者に見やすくしちゃいけないわけだよな。うんうん。やっぱり、ここはなるべく背景を暗くして何が書いてあるのかわからないようにすべきだよな。どうせだったら全部真っ黒に塗り潰しちゃえばいいんだけれど、それをやると仕事をさぼったことがバレちゃうので、ちょこっとだけは何か描いとこ」
……以上、藤原ヨウコウの心情を邪推してみました。いや、そんなラクじゃなかったとは思いますが。(+1)

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注:ちゃんと出たらしい。

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