S-Fマガジンを読んでみる

大熊健朗

第2回2002年9月号


「S-Fマガジンを読んでみる 第1回」をアップしてから幾歳月。もう二度とアップされない一回こっきりの突発企画になるだろうと人ごとのように思っていたのだが、ふとした拍子に復活することになってしまった。で、ただ復活しただけでは面白くないので、林哲矢さんが主催しているS-Fマガジン考課表に参加し、点数を併記することにした。参考にしていただければと思う。

さて、古色蒼然とした宇宙戦争の表紙と、トム・クランシー原作の映画「トータル・フィアーズ」の広告が載っている裏表紙に挟まれたS-Fマガジン2002年9月号の特集は「Forever Future War 戦争SF特集」
普通、戦争SF特集というと『宇宙の戦士』を初めとしたおなじみのラインナップの紹介ということになるのであろうが、今回は昨年9月11日の同時多発テロに関するSF作家のエッセイを中心に据え、単なる反戦/好戦という枠を超えた重厚な内容になっている。またこれは偶然なのか意図したのか、それともテーマ上必然なのかはよくわからないが、収録された3編の小説ともがエッセイと何らかのつながりを有しているあたりはうまいと思った。
ただ、このような特集ならば9.11以降の小説を最低一編は載せるべきだったのではないかと思うのだが、さすがにこのテーマを真っ正面に扱い、なおかつそれなりの質を有している戦争SFをみつけるのは困難だった、ということだろうか。また、アメリカSF作家のエッセイも2つだけでなく、もっと訳してほしかったと思う(特にビッスン)。それはともかく、現実の事件とSFをリンクした特集と執筆陣の豪華さに敬意を表し、関連作品は全て1点分追加することにした。

特集以外では、中藤龍一郎によるレポート、「ネットの中の島々 インターネットによる海外SFシーン」がなかなか興味深い。海外のSF雑誌がその活動の場をインターネットに移したいきさつや、百花繚乱とは言わないまでも様々な個性的なサイトが誕生している様子が伺える。いやー、ネットはほんの一握りの国内サイトしかチェックしていないので、こんなに色々なウェブ・マガジンがあるとは全然知りませんでしたよ。今度見に行ってみようっと。


SFマガジン 2002年9月号

[Forever Future War 戦争SF特集]

[Forever Future War 戦争SF特集]
剣戟の響きも ハリイ・ハリスン
スパイリーと漂流塊の女王 アレステア・レナルズ
同時多発世界最終戦争 ジョージ・アレック・エフィンジャー

私はいつも私 林譲治

S.P.Q.R.〈後編〉 高野史緒

[連載企画]
《ことのはの海、カタシロノ庭》piece 9 立便図 田中 啓文&藤原ヨウコウ


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[Forever Future War 戦争SF特集]

剣戟の響きも On Battles Sound

(初出:<イフ> 六八年十月号)
ハリイ・ハリスン Harry Harrison/中村 融 訳
(イラストレーション・宮武一貴)

かつて宇宙へと旅だち、植民惑星を侵略したエディンバラ人が再び地球を目指して来襲している未来。彼らは巨大なMT(物質転送)スクリーンを使って一挙に戦況を有利に進めようと画策していた。主人公はエディンバラ軍の意図を挫くために、ある作戦を実行しようとしていた……。

『宇宙兵ブルース』を彷彿とさせる鬼のような軍曹。そして、凄惨な戦闘描写が魅力のミリタリーSF。もちろん、作者が作者だけに、単なるかっこいい話に終始せず、やや不安なラストにしているあたりはさすが。ただ、「戦争の魅力」と、「戦争小説の魅力」は別に扱うべきであり、本作はSFであるために、どうしても軸足が後者に傾いている。そのため、ラストのような結論を出されても、いまいちピンとこないのが残念。これが、戦争という物語を必要とする国家(と国民)というテーマになると、俄然とリアリティがましてくるんじゃなかろうか。(+2点)


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スパイリーと漂流塊の女王 Spirey and the Queen

(初出:<インターゾーン> 九六年六月号)
アレステア・レナルズ Alastair Reynolds/中原 尚哉 訳
(イラストレーション・田中光)

人類が王制主義者と標準化主義者にわかれ長い間戦争を繰り返してきた未来。フォーマルハウト星付近に逃げ込んだ標準化主義者の離反者を追いかけることになった主人公は、そこで意外な事実を知ることになる。

身体の一部を改造することが当たり前になり、戦闘に参加するのが人間ではなくて「蜂機」と呼ばれる機械になった未来の物語。こうした、テクノロジーの進化により人間や社会が大幅に変化する様子を描く話はいかにもSFらしくて、とても好きだ。本作では、テクノロジーそのものが主導権を握り、人間は次第に退化していくわけだが、この辺りはいかにも現代的であると思う。かつてウェルズは資本主義の社会に生きる人々を二つにわけ、8万年後の世界としてカリカチュアライズしたが、もし彼が現代に蘇り再度「タイムマシン」を執筆したとしたら、だいたい本作のようなテーマになるのではなかろうか。
なお、点数に関しては田中光のイラストがとてもよかったので1点プラスしてある。(+3点)


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同時多発世界最終戦争 All the Last Wars at Once

(初出: アンソロジー Universe 1 , 1970 )
ジョージ・アレック・エフィンジャー George Alec effinger/浅倉 久志 訳
(イラストレーション・佐治嘉隆)

激化する人種間の対立に終止符をうつべく、ひとつの協定が成立した。ある時点より1ヶ月間の間、世界の覇権をかけて、有色人種と白色人種が全面的な戦争に入るというのだ。だた、この戦いは次第に人種間だけではなく様々なイデオロギー同士の戦いへと変貌してゆくことになる。そして、1ヶ月後、人々が選択したこととは……。

有色人種と十把一絡げにするのはとても失礼だと思うのだが、それはそれとして、単なる1クラスの生徒間ではなくて、全世界の人々がバトルロワイアルを繰り広げるというスケールの大きな物語にするとはさすがだぜエフィンジャー。ただ、こういう情況になると、1ヶ月限定という約束は絶対反故にされると思うなあ。できれば短編ではなく長編で読みたいような話ではあるのだが、そうなると救いが全くなくなりそう。ラストの美しくもおぞましい光景は印象的。(+2点)


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私はいつも私 林譲治

単に編集側のミスなのか、他の理由によるものなのかよくわからないが、なぜか目次には載っていない短編。人間の意識をコピーした探査船と未知の宇宙船とのコンタクトを描いている。
たとえ全ての器官を機械に置き換えたとしても、意識が人間である限り情報は人間がわかる範囲でしか知覚できないのではないか、という問題がテーマになっていて、今月号のS-Fマガジンに収録された林譲治のインタビューと繋がる内容になっている。物語というより延々と独白が続くような説明文という感じがするが、テクノロジー主体のハードな話なので、これはこれでいいんじゃなかろうか。(+1点)


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S.P.Q.R.〈後編〉 高野史緒

(イラストレーション・たまいまきこ)

<大天使の塔>崩壊の知らせを受け、ローマへやってきた主人公はそこで数々の驚くべき光景を目にすることになる。そして、現在厳重に閉鎖されている<大天使の塔>に行くために彼は一計を案じるのだったが……。

多分、ハヤカワJシリーズのひとつとして出版されるはずの連作シリーズ第5作の後編。私は、これまでの話を全然読んでいない(「S.P.Q.R.〈前編〉」は読んだ)ので、シリーズを通しての評価は全く出来ない。ただ、本作に限っていえば、古代ローマと、SFっぽいガジェットと、現代のインターネット掲示板を元にしたおぼしき描写のそれぞれが全然かみ合っていないことがとても気になった。特に古代ローマをかなりリアルに描こうとしている様子が伺われて、どうしてもそれ以外の要素が邪魔くさく思えてきてしまうのだ。
なお、2ちゃんねるネタはよっぽど上手くやらないと、馬鹿にされるだけだと思うんだが。(0点)

とか、偉そうに書いていたら、林さんより、舞台は古代ローマじゃなくて中世ローマを基にしているのではないか、とのご指摘をいただきました。確かに。そもそもビザンツ帝国も出てるのに、古代はおかしいよなあ。(2002/09/21)


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<連載企画>

《ことのはの海、カタシロノ庭》piece 9 立便図 田中 啓文&藤原ヨウコウ

くだらないギャグはもっともらしく語るといっそうくだらなさと面白さが際だつという好例。藤原ヨウコウは多分嬉々として水墨画ちっくなイラストを描いていたのではなかろうか。こういうノリは力の限り肯定してゆきたいものだとしみじみ思う。(+2点)

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