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2005年1月号


近年希にみるほどの注目を全世界から浴びた2004年の大統領選挙はブッシュの勝利で幕を閉じ、イラク戦争の幕引きが完全に終わらぬまま、2005年が始まろうとしている。
……と、柄にもない時事ネタをうっかり書いてしまったのは、勿論今月号のSFマガジンの特集が「アメリカ現代社会とSF」であるからに他ならない。監修の小川隆は、以前、戦争SFを特集したり、「スプロールフィクション」というキーワードでアメリカSF周辺の状況を紹介したりと、現代のアメリカSFについて精力的に取り上げており、今回はこれまでの特集の通底音であったアメリカの政治状況を正面からとらえた気合いの入った内容になった。なかでも、小川自身による「9・11以後のアメリカ作家たち」は、9・11から大統領選にかけてアメリカSFをはじめとした小説家たちがどのような活動を行ってきたのかを綺麗に整理して紹介しており、読み応えのある内容になっている。……のだが、後半の大統領選の話題になるあたりからどうも首をかしげる文章が目立つようになる。ようするに、アメリカSF界は保守的だ、ということが言いたいらしいのだが、いまひとつ納得しがたい内容になっている。例えば、

『ハリー・ポッター』や「X-ファイル」のブームに便乗する形で若年層にターゲットをしぼったシリーズもの、企画ものは、書棚をにぎわすことには成功したものの、新しい読者を大幅に獲得するには至っていない。また、非白人のSFも、作家も作品もずいぶん増えているが、ヒット作はまだ生まれていない。黒人のためのロマンスや、ミステリが一定程度の成功を収めているのとは対照的な現象である。逆に、スペース・オペラやテクノSFといった、保守王道をいくSFは、この二十年ほどの衰退ぶりが嘘のような活況を呈している。

と、あるのだが、「書棚をにぎわすことには成功したものの、新しい読者を大幅に獲得するには至っていない」と、「一定程度の成功を収めている」が果たして「対照的な現象」と言えるのだろうか? ようするにプチブームになっている状況を小川の主張にあわせるかたちで無理矢理悪い表現と良い表現で書いているだけではないか、と思ってしまう。こうした文章には具体的なデータが不可欠であるはずだ。また、上記の文章からすると、「ハリポタ」「X-ファイル」イコール非保守で、スペオペやテクノSFは保守と読めるのだが、このカテゴライズの妥当性もかなり疑問だ(っていうか、テクノSFってなに? テクノっていうからには保守っぽくない気がするんだけど)。
さらに、社会的問題を扱ったSFが少なかったり、政治的な短編を採用したSF雑誌に対して「リベラルなエリート主義でファンを操作しようとしているという非難もぶつけられている」という理由で「SF界においても、今回の選挙結果同様に、保守派が優勢なのである」と結論づけるのも、ものすごく疑問だ。だいたい現代を舞台にした純文学やミステリならともかく、未来世界を主とするSFで政治色が薄くなることはやむを得ないだろうし(だったら、ファンタシーは保守本流になってしまうのか?)、リベラルなエリート主義云々は、政治を扱えばどんな場でも出てくる批判であるはずだ。小川の論からすると、社会問題を扱ったSFが多数現れ、それに対する批判がない状態になってはじめて保守派が優勢ではなくなることになる。
ほかにも、カードなどジャンル作家がブッシュ支持であるというアンケート結果から「理想論としてはケリー、現実論としてはブッシュという選択なのである。何をおいても、テロの恐怖からの遮断が、アメリカの一般民衆が求めていたものだった」という意味不明な結論になっていたりと、小川の都合の良い話に無理矢理こじつけようとしているような感じがしてしまう。

ということで、解説について不満を長々と書いてしまったが、小川が文章を書いたのは、おそらく選挙戦直後のはずで、冷静な解説を書くというのはなかなか難しかったのかもしれない。もう少し時間を置き、その後のSF界の状況をふまえた上で、今一度、同テーマの特集を是非組んでほしいと思う。

なお、他の文章としては渡辺葉による「オルターナティブの可能性」もあるが、最近はノンフィクションがブームですよ、という話で、フィクションを扱う雑誌でそんなことを言われても……と思ってしまった。これだったら、短編をもうひとつ増やすか、アメリカSF作家のインタビューを載せた方がよかったのではなかろうか。


SFマガジン 2005年1月号

[特集:アメリカ現代社会とSF]

[追悼:矢野徹]
さまよえる騎士団の伝説矢野徹

[特集:アメリカ現代社会とSF]
ヘッドラインのマジックダグラス・レイン
パンと爆弾M・リッカート

[読切]
風に乗って草上仁
午前の幽霊〈前編〉津原泰水 禍つ星〈後編〉ジョージ・R・R・マーティン

[翻訳連載企画「浅倉久志セレクション」第4回]
心にひそむものデーモン・ナイト


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[追悼:矢野徹]

さまよえる騎士団の伝説 矢野徹

初出:<S-Fマガジン>一九七四年二月号
(イラストレーション・佐治嘉隆)

ボンの大学でドイツ中世史を学んでいた主人公は、ノルマンズドルフに伝わる騎士団の伝説を耳にする。それは、閏年2月29日の夜、霧がかかった大通りを騎士団の幻が進んでゆく、というものだった。しかも、この幻を見た者は彼らに連れ去られ、永遠に戻ってこれなくなるという。
この伝説に興味を持った主人公は、紹介者のH(金髪の美女)とともに、現地で2月29日の夜を明かすことにするのだが……。

 密かに主人公に思いを寄せる金髪美女の描写が、いかにもひとむかし前の小説っぽいのが印象的な一作。霧の中からあらわれる騎士団の亡霊というのはなかなかよいと思うのだが、彼らにまつわる謎やそれを解き明かしていく過程がやや安直だったのが残念。これが笠井潔だったらそのまま矢吹駆シリーズの一遍として、面白いミステリに仕立て上げてくれたんじゃないかなーとか思ってしまった。(性格がぜんぜん違いますが)主人公が駆でヒロインHがナディアみたいな。


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[特集:アメリカ現代社会とSF]

ヘッドラインのマジック The Headline Trick

初出:Rabid Transit: A Mischief of Rats (Velocity Press, 2003)
ダグラス・レイン Douglas Lain/小川隆訳
(イラストレーション・栗原祐孝)

悪いニュースのヘッドラインを集めて一儲けする人物を狂言回しにして、アメリカの社会問題をえぐり出そうとしてるっぽい一作。でも、これじゃあ、SFに政治を持ち込んでくれるな、という声が出てくるのもわかるなあ。と、読了した直後は思ったものだが、次の収録作である「パンと爆弾」を読んだ後だと、割と含蓄がありそうな気がしてきた。ということで、二作続けて一気に読むことをお勧めしたい。


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[特集:アメリカ現代社会とSF]

パンと爆弾 Bread and Bombs

初出:<F&SF>二〇〇三年四月号
M・リッカート M Reckert/小野田和子訳
(イラストレーション・おがわさとし)

何らかの紛争によって荒れ果てたアメリカ(らしき場所)にやってきた女の子たちと、ある悲劇の物語。

「ね、お嬢ちゃん、世のなかには、あんたが知らないことがたくさんあるの。昔は、世界は安全なところだったのに、それが、ある日、そうじゃなくなった。あの連中が」と母はキッチンの窓からまっすぐにミラー家のほうを指したが、ミラー家のことをいっているのでないことは、わたしにもわかっていた。「はじめたのよ」
「ただの子供だよ」
「そりゃあ、あのふたりがそうといってるわけじゃないわ。あの子たちの国のことをいっているのよ(略)」

と、いうくだりを読んで、「昔は、世界は安全なところだったのに」じゃなくって、「アメリカは安全なところだったのに」じゃないのか、とか、かつて他の国家を危険にしたこともあるくせに、とかツッコミを入れてしまった。ただ、結末を読むと、作者の視点はもっと深いところにあることがわかるわけだが。今回の収録作のなかではベストな出来。


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[読切]

風に乗って 草上仁

(イラストレーション・イトウユミコ)

居留地に自由意志で滞在している『ゲスト』たち。地球人たちは、彼ら――レロズ星系の現地人――をなんとしてでも隔離しておく必要があった。銀河連邦より、資源開発の権利を獲得するために。

宇宙に進出して間もない人類が、銀河連邦に組み込まれ四苦八苦しているという状況や、現地人の奇妙な生態といったバックグラウンドはとても面白そうなのに、意外性のかけらもない平凡な物語によって完全にスポイルされてしまっているのが残念。今回の話は完全にボツということにして、連作短編化を希望。


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[読切]

午前の幽霊〈前編〉 津原泰水

(イラストレーション・森山由海)

夢幻泡影 第2章 とのことだが、第1章は未読のため、感想省略。


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[読切]

禍つ星〈後編〉 The Plague Star

初出:<アナログ>一九八五年一月号、二月号
ジョージ・R・R・マーティン George R.R.Martin/酒井昭伸訳
(イラストレーション・末弥純)

お目当ての胚種船〈方舟〉号に侵入した登場人物たちが、船の主導権をかけて戦いを始めるお話。ロクでもない連中がロクでもないことをするというのは読んでいて実に楽しいですね。
ただ、今回のSFMに収録された他の短編のタッチが比較的固めだったため、どうしても本作が浮いている印象を受けてしまった。やっぱり、前号でまとめて掲載しちゃった方がよかったんじゃないかなあ。「地球の裏側」と「ワーク・シェアリング」はボツにして。


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[翻訳連載企画「浅倉久志セレクション」第4回]

心にひそむもの The Analogues

初出:<アスタウンディング>一九五二年一月号、二月号
デーモン・ナイト Damon Knight/浅倉久志訳
(イラストレーション・北見隆)

ドクター・マーティンはある決意を固めて、浅黒い小男と向き合っていた。デモクラシーの信奉者である彼に、なんとしてでも理解を求めなくては。クスコ博士が発明した、犯罪を抑制する効果的な方法を。そして、この方法によって実現される恐るべき未来を……。

冒頭の一節が素晴らしい。なにか不安感を与えるような「目玉」の描写が北見隆のイラストと相まって独特の雰囲気を醸し出している。そしてこれが綺麗にラストに繋がっていくあたりはさすがはデーモン・ナイトと言ったところだろうか。
しかし、ひとつのガジェットによって人や社会そのものが変容してゆく様子を描いているあたりは、なんとなくイーガンちっくかなあと、『万物理論』も読んでいないくせに言ってみる。

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